日本百名山である久住山をはじめ、九州本土最高峰である中岳を擁する九州の屋根くじゅう連山。今回はそんなくじゅう連山の中に連なる1700m級のピークを踏破する17サミッツに挑戦してきました。
冬と春のゆらぎが混じり合うこの季節、くじゅう連山はとても美しい景色を見せてくれました。その景色にただただ見惚れてしまい何度も足を止めてしまいながらも、きっとこの先忘れない思い出になるだろうと、この風景をしっかり目に焼き付けながら1歩、また一歩と歩いてきました。
まだ太陽が昇らない朝5時、月明かりとヘッドライトの明かりを頼りに牧ノ戸峠登山口を出発。
反時計回りで20kmの山旅へ出発します。
行動記録
2022.3.20
- 5:13
- スタート:牧ノ戸峠登山口
- 6:38
- 1座目:星生山
- 7:28
- 2座目:久住山
- 7:45
- 3座目:天狗ヶ城
- 7:56
- 4座目:中岳
- 8:19
- 5座目:稲星山
- 8:40
- 6座目:白口岳
- 9:25
- 鉾立峠
- 10:54
- 7座目:大船山
- 11:17
- 8座目:北大船山
- 12:09
- 坊ガツル
- 13:27
- 9座目:三俣山:南峰
- 13:27
- 10座目:三俣山:本峰
- 15:51
- 下山:牧ノ戸峠登山口
装備(軽量)
- 飲料1.5L
- 雨具
- ツェルト
- ファーストエイドキット
- モバイルバッテリー
- 行動食
- ヘッデン
- ウィンドシェル
- 一眼レフ
月明かりと共に出発
薄く霧の立ち込める牧ノ戸峠の登山口、午前4時半頃。
思っていたよりも多くの車が駐車場に止まっていました。
登山口へ吸い込まれていくヘッドライトの光を横目に少しだけ休憩をとり、ブーツに履き替え、準備を進める。
時刻は午前5時。冷たいくじゅうの空気を肌に感じながら、17サミッツスタート。
星生山と雲海
まだ暗いくじゅう連山の早朝。
少し雪の残る登山道は凍りついて固まっている。
暗がりの中、今日はどんな山行になるのか期待に胸を膨らませ、日の出が近づくのを感じながら1座目の星生山へと向かう。西側の尾根から少しずつ山頂へと向かい、気がつくと夜は明け、山頂を踏む頃には信じられないくらいの絶景が待っていました。
眼下には果てしない雲海が広がり、空は薄いピンクと紫のグラデーション、月は空高くにその姿を残し、まるでこの世が生まれる瞬間のような、ただただ美しい光景でした。カメラのスペックが良くないのを惜しみながらも無心でシャッターを切る。
人のいない久住山
絶景の星生山を後に、岩場が続く稜線を進むと太陽の光をたっぷりと浴びた阿蘇山がその姿を覗かせる。そして視線の先には2座目の久住山が。
冷たい空気とそれが反射するように澄み渡った早朝の空と、くじゅう連山のコントラストを楽しみながら岩場を進んでいく。
すると眼下にはくじゅう分かれの避難小屋が。少しだけ休憩をとって、小屋を後にする。
久住山が近づくとどんどん強さを増していく風。山頂に着く頃には大爆風というくらいの強風に変わってしまい、耳に響く轟音がその強さを物語る。
雪を被ったその姿と青い空の美しさにシャッターを切り、次のピークを目指す。
天狗から御池を見下ろす
まさか3月に雪の降ったくじゅうを歩けるとは思ってもいなく、嬉しい気持ちと、景色を眺める度に止まってしまう足を急かしながら3座目の天狗ヶ城を目指す。
静まり返った山頂には数人の人影。
穏やかに水面を揺らす御池を見下ろしながら3座目の天狗ヶ城に到着。
そして稜線を伝った先には九州本土最高峰の中岳が見える。
天狗ヶ城と中岳の2トップはくじゅうの中でも大好きなフォルムの一つ。
次に好きなのは大爆風で早々に退散してしまった久住山。
遠くからみると恐竜の皮膚のような山肌はいつ見てもかっこいい。
九州本土最高峰中岳
天狗ヶ城から稜線を伝って九州本土最高峰の中岳へ。
1791mを誇るこのピークは1980年までは最高峰と呼ばれていなかったそう。
久住山や大船山の登山客が増えたことで、山頂の崩落などの影響で標高が変わってしまい、再測量した結果最高峰と呼ばれるようになった経緯がある。
澄み渡った空の下に広がる坊ガツルには雪がかかり、野焼き後のその姿はまさに侘び寂びの世界のように感じた。山頂標識にはこの青空に不似合いなくらいに霧氷がびっしりと、もはや何と書いてあるのか判別不能だがその姿を念の為写真に収めておく。
次に目指す山は雪化粧で真っ白な稲星山、そして下りの道が崩落している白口岳。
ここまで来るとほとんど人とすれ違うこともなく、いよいよ難関の7座目大船山を目指すルートへ。
ガスが残る東側のこの山域は、今までの穏やかな雰囲気とは違う。最後まで無事歩き着れるように注意を払いながら大船山を臨む道へと歩みを進めていく。
足はまだまだ疲れていない。体力も存分に残っている。
無事に17サミッツを終えるには十分すぎるコンディションだ。
白くそびえ立つ大船山へ
鉾立峠を後に、真新しいピンクテープを頼りに樹林帯を抜けていく。
大船山への取り付きから先は静かな白い世界を残し、冷たい風がビュンビュンと吹き抜ける。
ファストスタイルで歩きたかった今回の山行ではトレッキングシューズを持ち出そうかと考えていたけど、ブーツで来て良かったと思いながら大船山山頂を目指す。まだ一度しか履いてないおろしたてのブーツで20km歩いて履きならすことを目的にしたけど、そのおかげで雪が残っていても足元に不安がないので安心して歩ける。
雪が残る山道でその感触を楽しみながらサクサクと順調に登り、前回はここで限界を感じ避難小屋で仮眠をとったな、と思い出しながらあっという間に山頂へ。さすがに2回目は慣れたものなのか、履き慣らしのブーツで歩いても全く疲れを感じていない。足が攣る気配もない。
この日はガスが濃く、晴れる気配もないのでこのまま北大船山を踏んで坊ガツルへ下り、最後の山三俣山の直登ルートに挑むことにする。
最後の砦三俣山直登ルート
北大船山を踏んで約1時間程度、坊ガツルまで下って小休止。
初めて登る三俣山直登ルートの方面を確認し、最後のビッグサンダーを食べて出発。
前半の幻想的な雰囲気はどこへやら、野焼き後の風貌を現した坊ガツルは完全に春の装いで、陽気でのんびりとした様子だった。
気を引き締めて直登ルートへと取り付く。何年か前の水害で登山道が崩落してしまったこのコース、思っていたほどに難しそうな登りではなく、序盤は階段の跡も残っているし簡単に登れそうだとタカを括って油断していた。
するとほどなく、崩落エリアが連続し始める。足だけで登るのが難しかったので腕の力も借りながらどこを掴むかを延々と探しながら登ることに。油断するといつか滑落するぞ、と緊張感を持ちながら一歩また一歩と登っていくが、直登ルートというだけあって傾斜がきつい。心拍数は上がり続け、体力の消耗も早くなってきたので、動きが雑にならないように注意しながら登る。
これが破線直登ルートの洗礼か、という感じだった。
やがてその急登もゆるやかになりようやく三俣山南峰へ。
ゼーハーゼーハーと肩で息をしながら登ってくる謎の登山客を見た人はびっくりしたと思うが直登ルートを頑張って1時間で登ってきたので大目に見てほしい。
しかもすでに18kmくらい歩いているのである。と言いつつも息が切れるような登り方をしてはいけませんよ、という話なのは理解している。それでもやってしまう性分なのは何とかせねば。
そして少しだけ休憩をとって三俣山本峰へ。
無事10個目の山頂を踏んで、これにて17サミッツ終了。
スタート地点に戻りたくない
さて、あとは下山するだけ。牧ノ戸峠の駐車場を目指すのみなのでもう他の山に登る必要もない。
しかしここからが最大の問題だと言っても過言ではない。
最高にダルいので、三俣山から降りたくないのである。
語弊があってはいけないが、帰りたくないのではない。むしろ早く帰りたい。
しかし、この道を下ると考えると一気にモチベーションが低下してしまい足が全く先に出ないのである。何がダルいかと言われると、ドロドロの三俣山の道を歩きたくない。
ただそれだけに尽きる。
何を今更とか、じゃ最初から登るな、という声が聞こえてきそうだがその通り。
登らなければ何の問題もない。しかしダルいものはダルい。
意を決して下山開始するものの、10分も経たないうちに心を砕かれ、あからさまにペースが落ちてしまう。
直登コースを登る時にすでに手は真っ黒になっていたが、こんなところでコケてさらに真っ黒になるのは勘弁なので慎重に、ただ慎重に下っていく。
大して汚れていなかったはずのブーツはいつの間にか泥だらけになり、これを帰って洗うのかと考えると更にモチベーションが下がり、また歩くスピードが落ちてしまう。
仕方ないと思いながらゆっくりスローペースで下りながらようやく諏峨守越に到着。
あとは岩ゴロゴロゾーンを颯爽と歩き、大曲登山口を目指して終了と思ったが、大曲登山口までの道が今日一番コンディションが悪い。三俣山でドロドロになったブーツが更に泥の上塗りになってしまい完全に心が無になってしまう。ギアは汚してなんぼのモンだというのは分かっているものの、帰る前から洗う手間を考えたりしたくはない。(自分の雑魚さ加減よ)
これは後日談になるのだが、ブーツを洗おうとシューレースを外した時に起こる悲劇をこの時はまだ知るよしもなく、どうしていいか分からず途方に暮れた事は機会があれば別の記事にしようと思う。
さて、大曲登山口からは30分程度車道を歩いて牧ノ戸峠を目指して今回の山行は終わり。上着を出す気力が起こらず、山の中より寒い車道を歩き続け、ようやく駐車場に到着。
無性に甘いものが食べたくなってしまい、寒い車道を歩き続けた体にソフトクリームを投入するという自分でも何をやっているのか分からないムーブを挟み、温泉に入りくじゅうを後にしました。(いつもアツアツの温泉がこの日はぬるく、なかなか上がれなかった。)
明け方の幻想的な山はどこへ行ったのか、という後半の厳しさ。
ブログを書いていてもその対比が惨憺たるものですが、それがリアリティというものでしょう。後半の出来事を書いてる方が自分でもアホらしさが出ていて楽しいんですよ。
最後に
しかし17サミッツは面白い。
今回、前半は雪を纏った美しい山々を望みながら、後半は現実的に肉体を酷使しながらの山行でした。山域と時間帯によって姿が変わるその様はバリエーションに富んでいて非常に面白かったです。
今回は体力面も問題なかったし、足も痛くならなかった。次回クリアしたい課題としては直登ルートをもっとスムーズに登れるようになること。あとはタイムをもっと縮める事。9時間前後くらいには縮めたい。これはただの自分への挑戦。写真を撮らずにグイグイ進めば多分できる。
タイムに関して言えば最初に三俣山を登って直登ルートを下っていくのが早く進むというイメージがある。500mくらいの急登を避ける、っていうのは賢い戦略なのかも。ただ、あのルートを下るのかと思うとちょっとゲンナリはする。
ということで次回は頑張ってタイム短縮の目標に向かって頑張るぞ。
17サミッツ対策みたいなものはまた別の記事にしようと思っているのでまたの機会に覗いてくださいね。今回はほんとに楽しい山行でした。またくじゅうが好きになってしまった。それでは。